兵頭氏、別宮氏ともども軍事と戦史に一家言を持つ人たちで私もこの分野に関しては一目置いているんですが、やや経済に関しては知識が薄いのではないかと疑問を持ちました。
というのも
○1936年を境に日本経済は暗転した。
○これは戦争のためではなく統制経済の失敗である。
○政府官僚が統制するのではなく軍事産業の育成など民間活力を利用すべきだった。
などなど…の記述があるからです。
同書では一人当たりGNPが1938年を境に低迷し始め、それ以前の水準に回復するのは昭和30年代に入ってからであるとも書いてあります。
たしかに大筋ではそうなのかもしれませんが、私がネットなどで調べてみると経済に関しては微妙に間違っているような気が(苦笑)。
政府発表の戦前のGNP(国民総生産)あるいはGDP(国内総生産)の数値が見つからなかったので、他サイトからの引用ですが
年次工業生産指数で1913年を100とすると
1936年 169.2
1937年 194.5
1938年 195.2
となっており、それ以降の数字はないもののその後もそれほどの低下はないような印象です。
また別サイトでは、(資料)総務省統計局「日本長期統計総覧」からの引用として
1936年 3.1
1937年 23.7
1938年 3.4
1939年 0.8
1940年 -6.0
1941年 1.6
1942年 1.3
1943年 -0.3
1944年 -3.4
1945年 不明
という経済成長率となっており37年急激な経済成長(支那事変勃発による戦争特需と思われる)のあとも緩やかに成長しているんです。
1943年、1944年のマイナス成長は明らかに戦局悪化の影響でしょう。1937年と1941年のGDPは165017から212594(単位不明)とむしろ増加しているんです。
各国比較でも1940年から1945年までは、程度の差こそあれGDPが低下しているのが普通で例外は世界の工場であったアメリカ一国だけなのです。ソ連も緩やかに上がっていますがこれはアメリカのレンドリースのおかげで特定の分野(戦車など)に集中して工業資源をつぎ込めたからでしょう。
本書で指摘した一人当たりGNPも、1938年から1942年までは緩やかに上昇しています。1939年と1944年はほぼ同じくらいで1945年だけが敗戦の影響でガクンと落ちているだけです。
他の分野ではユニークな内容だけにいかにも惜しい!
私の結論としては
◇別に官僚主導でも良いが、死刑を含む失敗した時の厳しいペナルティも同時に課すべきだった。(これは現在でも言えますね!)
くらいでしょうか。