鳳山雑記帳はてなブログ

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兵站面からみたアフガニスタン戦争

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 皆さんはアフガニスタン戦争をご存じですか?今アメリカが行ってるやつじゃなくて、その前のソ連の侵攻から始まった戦争です。



アフガニスタン侵攻【アフガニスタン侵攻(アフガニスタンしんこう)は、アフガニスタンに1978年に成立した共産主義政権を支える為に、1979年にソビエト連邦が軍隊をアフガニスタンへ進めて占領した事件。 ソ連・アフガン戦争と呼んだ場合、アフガニスタンの反政府組織や義勇兵ソ連軍の間で発生した戦闘を指す。ソ連軍のアフガニスタン国内の戦闘は1979年の出兵から1989年の完全撤収まで10年に及んだ。】(フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』より)


 地図を見てもらえば分かりますが、国土のほとんどが山岳地帯というアフガンに、王党派政権を倒して誕生した共産党政権が、民族派に妥協し親イスラム的政策に移行してソ連から離れようとしたことに怒り、自国の言うことを聞く傀儡政権を樹立するために軍事介入したのが始まりです。

 ソ連に亡命していたカルマルを首班とする傀儡政権こそできましたが、これで旧アミン政権派を含むすべてのイスラム組織を敵に回し、泥沼のゲリラ戦でへとへとになりそのためにソ連が崩壊したとさえ言える戦争でした。


 ソ連軍は狙撃師団3個、空挺師団1個を主力とする陸軍と数百機の空軍を投入し、半月で片がつくと豪語しましたが、それが甘すぎる見通しだったことはすぐ証明されました。

 近代装備のソ連軍が、碌な軍備もないゲリラに負けるはずがないと思われていましたが、ゲリラ側は敵の弱点である補給路を叩いてソ連軍を苦しめました。またアメリカやアラブ諸国が裏からゲリラ側を援助したため、戦闘で大きな被害を出しても隣国パキスタンに逃げ込んで軍を再編し再びアフガンに舞い戻るというゲリラ側に対し、パキスタンに越境攻撃をしてアメリカと全面戦争になるのを恐れたソ連では手足を縛られた形でしか戦えませんでした。


 それでも一時はヘリコプターを使ったヘリボーン作戦を大規模に実行しアフガンゲリラを壊滅寸前に追い込んだこともありました。これを見たソ連軍高官は現状の兵力10万を30万に拡大すればアフガンゲリラを屈伏しうると発言します。たしかに30万あったらそうすることは容易でしょう。



 ではなぜ、それが実行できなかったのか分かりますか?回答がすぐ出た人は軍事に(というか軍事の本質に)詳しい人です。


 皆さんは分かりましたか?そう補給の問題なんですね。ベトナム戦史を知ってる人ならアメリカ軍は50万を常時ベトナムへ投入してたじゃないか?と反論なさるでしょう。しかもアフガンはソ連と接してるからより補給も楽だろうと。


 もちろんアメリカとソ連の経済力の格差はあったでしょう。それよりベトナムは海に面しており海上輸送が利用できたんです。ここでもう一度アフガニスタンの地図をみてください。鉄道がないのに気付かれましたか?一部北部マザリシャリフとテルメズ間は通じてますよね。これはソ連が補給用に建設したものです。

 国土の中央にヒンズークシという大山脈が横たわるアフガニスタンは、国土を環状に廻る道路のみが幹線道路で、しかも唯一といっていい補給路はゲリラの格好の攻撃路でもあるという現実がありました。

 とくにマザリシャリフから首都カブールに通じる交通の要衝サラン峠は何度も激しい戦闘が起こりました。

 陸上での補給の要は鉄道輸送です。それが建設できないのは高低の激しいアフガンの地形でした。事実ゲリラ側は馬やロバを使って輸送していたくらいです。トラック輸送は燃料を食う上に、ゲリラの格好の的です。ソ連の補給力では10万~12万が限界でした。

 一説では1個師団が1日に必要な物資は300トンだと言われています。ところが食料はおろか水さえないアフガンではこれが500トンになったそうです。空軍もいるので正確な数字は不明ですが、師団換算でざっと8個師団としましょうか。

 これで1日4000トンの物資が必要となります。10トントラックで400台分。これは補給拠点までの数であってそこからさらに前線に運ばなければいけませんからその倍の800台は必要だったでしょう。これが1月で延べ24000台、1年で延べ28万8千台。これはゲリラから攻撃された損耗分は含みませんから気が遠くなるような膨大な数のトラックがいる計算になります。

 一度に10万トンも20万トンも運び込める輸送船とはわけが違うんです。ソ連が疲弊して、ついには共産党政権が倒れたのも理解できるでしょう。

 
 ではなぜ、ソ連軍高官が30万増強説を主張したかという謎ですが、私はそれほど組織が硬直して戦争経済に疎く戦争全体が見えない人物が軍の要職を占めていたと見ます。


 どちらにしても、ソ連は崩壊する運命にあったのかもしれませんね。