鳳山雑記帳はてなブログ

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イラク戦争の教訓   ①ジェシカ・リンチ事件

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 趣味書庫にするか世界史書庫にするか非常に悩んだんですが一応軍事関係なので趣味書庫にしました。
 
 
 イラク戦争とは2003年アメリカ軍が中心になってイラクサダム・フセイン政権を倒した戦争です。本記事では大量破壊兵器の有無、アメリカの意図など国際政治に関わる部分には触れません。
 
 
 一般の印象では、1990年の湾岸戦争と同様圧倒的な近代兵器を誇るアメリカ軍が劣勢のイラク軍を文字通り一蹴した戦争だったと思われています。基本的には確かにそうです。しかも湾岸戦争と違い、最初からイラク軍は航空兵力皆無、圧倒的なアメリカ軍の制空権下で地上部隊だけで抵抗した絶望的な戦争でした。
 
 
 が、良く良く調べてみると湾岸戦争では表面化しなかったアメリカ軍の弱点が垣間見られた戦争でもありました。それを象徴する事例として二つ挙げようと思います。一つはジェシカ・リンチ人質事件、今一つは第101空挺師団アパッチ攻撃ヘリ部隊による地上攻撃作戦です。
 
 
 
 
 まずジェシカ・リンチ事件についてとりあげましょう。彼女は戦争中所属する輸送部隊を襲撃されイラク軍の捕虜となり奇跡的に救助された女性でした。戦後アメリカで英雄として祭り上げられますが、本人はそれを戸惑い拒否します。しかしアメリカにとっては自分の失態を取り繕うためにどうしても彼女を英雄にしなければならなかったのです。
 
 ジェシカ・リンチの属する第507整備補給中隊(以下第507中隊と表記)は第3軍団第31防空砲兵旅団(パトリオットミサイル装備)5/52防空砲兵大隊をサポートする部隊でした。親部隊がクウェートに派遣されたため第507中隊も同行します。
 
 もともと砂漠戦を想定した装備ではなく旧式のトレーラーや輸送トラックを装備した部隊であったため砂漠での補給任務に支障をきたすことは明白でした。しかも隊長は実戦経験がなく(当たり前ですが…)、不利な状況が重なりました。
 
 
 ある時第507中隊は司令部よりイラクの首都バクダッド攻略作戦における一大兵站基地ブッシュマスターへの補給任務を命じられます。しかし途中のナシリアにはまだイラク軍駐留部隊と民兵がおり司令部はナシリアを避けて行軍する命令書をCD-ROMに落とし第507中隊に渡します。ところが全く実戦素人であった中隊長はCD-ROMの見方が分からず、命令書を運んだ司令部の将校も「これくらいは説明しなくてもわかるだろう」とあえて説明しなかったそうです。まずこれが第1のミス。
 
 
 中隊は補給物資を満載したトラック群を国道8号線上で走らせます。ナシリア近郊でアメリ海兵隊の部隊と遭遇しますが、海兵隊の将校はこれを見過ごします。戦後の証言では「武装を持たない補給部隊が戦闘部隊を追い越して戦場に入るのに違和感を覚えたが陸軍の作戦に口を挟むべきではない(揉めるから)と思って黙って通した」そうです。これが第2のミス。
 
 
 第507中隊の中隊長は、初めての戦場で緊張し地図を読み間違えていたのです。作戦計画ではナシリアの手前で左折し町を迂回して兵站基地に向かうはずが悪魔に魅入られたようにナシリアへ侵入するルートを取ってしまいます。
 
 
 そして致命的な第3のミスが発生します。慣れない砂漠の行軍で補給部隊は比較的馬力があり走破力の高いトレーラー部隊と、旧式で馬力が弱く故障が多発する部隊に二分されました。ジェシカ・リンチは不幸なことにこの鈍足部隊に取り残されたのです。
 
 
 最初イラク軍は、まさか戦場に敵の補給部隊が突っ込んでくるはずがないと町に入るのを見過ごしたそうです。もしこの段階でイラク軍の銃撃を受けていれば部隊が全滅する事はなかったと思います。
 
 
 不幸な第507中隊は、町の中心部に迷い込みました。中隊長がルートの選択ミスに気付くのはあまりにも遅すぎたのです。この頃イラク軍も間抜けな敵の補給部隊がナシリアに迷い込んできた事を分かります。イラク軍の兵士と民兵たちは補給部隊に激しい銃撃を浴びせました。
 
 ところが当たり前ですが実戦経験のない第507中隊の兵士たちは、応戦しようにもM16ライフルに砂が詰まって発射できなくなってしまいます。本来なら軍幹部が万が一の事態を想定して(銃のメンテナンスを)指導しておくべき事柄でした。
 
 
 こうして哀れな補給部隊は、故障せず自力で脱出できた一部を除いて全滅します。トラックの後部座席に座っていたジェシカ・リンチは銃撃を受け気絶したところをイラク軍の捕虜になったそうです。
 
 
 アメリカ軍の驕りが招いた悲劇でした。敵を舐め十分な準備をすることもせず行動した事がこのような事態を招いたのです。戦後アメリカ軍は己の失態をごまかすためにも生還したジェシカ・リンチを英雄に祭り上げるしかありませんでした。