鳳山雑記帳はてなブログ

立花鳳山と申します。ヤフーブログが終了しましたので、こちらで開設しました。宜しくお願いします。

スターリング機関と燃料電池   AIP(非大気依存推進)の仕組み

第2次大戦まで、潜水艦の生活環境は最悪でした。水も空気も限られていたため風呂にも入れずシャワーも制限されていたそうです。艦内は油と汗の混ざった独特の臭いがしていたとか。

 ところが、大戦後原子力推進潜水艦の登場によって環境は一変します。原子力発電は熱効率が高いためスペースも比較的小さくできます。原子炉で1グラムのウランが核分裂を起こすと重油約2トン分の熱量を得られるそうです。その熱量は蒸気タービンを動かして推進力となるとともに電動発電機を稼働させバッテリーにも充電されます。原子力潜水艦は、こうして得られた豊富な電力で海水を電気分解し酸素と水を無限に取り出す事が出来るのです。

 原子力潜水艦は酸素を取り込むために浮上する必要がない事から物資のある限り無限に(それでも人間の士気の問題から半年が限界とか)潜水でき、豊富な水でシャワーも風呂も使い放題だそうです。現代において最も快適な潜水艦は原子力潜水艦。何とも羨ましい限りですが、ではそれ以外の通常推進の潜水艦はどのような動力を使っているかというと第2次世界大戦と同様ディーゼル・エレクトリック推進なのです。

 どういう仕組みかというと、まず内燃機関であるディーゼルエンジンを回して推進力とするとともにバッテリーに電力を蓄電し空気を取り入れる事の出来ない水中ではその電気で推進します。ですから原子力潜水艦に比べると生活環境は悪いです。ただ、シュノーケルで空気を取り入れて浅深度で充電する事も出来るようになって少しはましになってきています。通常動力型潜水艦の欠点は、充電する電力の分しか水中行動ができない事です。


 という事で、各国は大気に頼らない推進方法の開発に力を入れました。そこで出てきたのが実用的なAIP(非大気依存推進)機関です。代表的なものとしてはスターリング機関、燃料電池があげられます。まずはスターリング機関について簡単に説明しましょう。

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 スターリング機関は、19世紀初頭イギリスのロバート・スターリングによって考案されたもので低公害、低燃費のエンジンとしてまず自動車に搭載されました。そこで技術を蓄積し1996年スウェーデンで初めて実用的なスターリング機関を搭載したゴトランド級が就航します。日本のそうりゅう型の積んでいるスターリング機関はスウェーデン製のライセンス生産です。(そうりゅう型はスターリング+ディーゼル・エレクトリック推進)

 スターリングエンジンは、密封したシリンダー内の気体(水素やヘリウム)に外部から加熱冷却を加えることによって膨張・収縮させ、それを利用してピストンを動かし動力を得ます。シリンダーの加熱にも過酸化水素ディーゼル燃料を燃焼させるだけなので外気を必要としません。熱効率もよく騒音振動も少ないなど潜水艦として理想のエンジンでした。ただ欠点があり、現在の技術ではそれほど大出力は出す事ができず水中でわずか4~5ノットが限界です。ですから高速運転時には従来通りのディーゼル・エレクトリック方式を使わざるをえないのです。

 海上自衛隊は、これを嫌いそうりゅう型の後期生産型からスターリング機関を廃止し、リチウムイオン電池搭載のディーゼル・エレクトリック方式に一本化しました。リチウムイオン電池は従来の電池に比べ2.5倍の蓄電能力を持つため水中に4週間潜れるそうです(それまでは2週間程度だった)。しかもいつでもエンジンを切り替えることなく高速(20ノット)を出せるので潜水艦能力は飛躍的に向上するはずです。



 次に燃料電池について説明しましょう。
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 燃料電池に関しては説明が難しいのですが、一言でいうと電気化学反応で電気を取り出す装置です。液体水素と液体酸素を化学反応させ熱を発生させます。それを電気エネルギーとして取り出す仕組みです。内燃機関のように燃焼ガスを出さないのでクリーンエネルギーとしてこれも自動車のエンジンに採用されました。燃料電池を潜水艦の動力として開発したのは1980年代の西ドイツでした。そして最初に登場した水素燃料電池潜水艦もドイツの212A型です。最初の212型は2005年竣工したU-31でした。イタリアも212型を採用しサルヴァトーレ・トーダロ級と名付けます。

 輸出型の214型は韓国やギリシャで採用が決定しています。完全輸入なら韓国海軍の214型も一応動くと思いますが、もしライセンス生産ならまともに動く可能性は低いです。それどころか整備能力の低い韓国はデリケートな燃料電池をろくに管理できず爆発事故を起こすかもしれません。どちらにしろ212型/214型は船体も小さく沿岸用の潜水艦に過ぎません。この燃料電池も今のところ推進力が弱く212型でディーゼルエンジンが出力3.12メガワットなのに対し最大でも360キロワットしかありません。



 将来的には大出力のAIP機関が登場すると思いますが、今のところは原子力推進の方が圧倒的に有利です。静粛性も原潜はかなり向上してきたそうですから日本も早く原子力潜水艦が欲しいですね♪