鳳山雑記帳はてなブログ

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書評 「太平洋戦争のロジスティクス」(林譲治著 学研)

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 以前から気になっていたタイトルだったんですが今回読む事が出来ました。大東亜戦争ではなく太平洋戦争とするあたりは気に入りませんが(苦笑)、帝国陸海軍の兵站について詳しく記した本が意外と少なかった中この本に出会えた事は幸せでした。
 
 ただ私の期待していた陸海軍兵站の総合的な思想や実践面での運用よりは、技術論組織論に重点が置かれていた点は若干の不満が残ります。日本では類書が少ないので仕方ない面はありますが…。それでもマレー作戦、インパール作戦に関する兵站の記述は貴重です。
 
 例えば、マレー作戦に参加した第25軍の3個師団(近衛・5・18)のうち近衛と第5師団が日本では貴重な自動車化師団であった事はあまり知られていません。かく言う私も第48師団と近衛師団(のちに近衛第2師団になる)が機械化されていた事は知っていましたが、第5師団もそうだったとは知りませんでした。
 
 日本は、全部で3個しかない貴重な自動車化師団のうち近衛・第5という2個師団を投入し兵站にも大量の自動車を使用して作戦成功に導いたそうです。ちなみに近衛師団の自動車保有数は663台、第5師団に至っては859台の自動車を保有しています。砲兵連隊の野砲もすべて自動車牽引の完全自動車化師団だったんです。
 
 マレー半島は長らくイギリスの植民地であったため道路網が整備され各地にガソリンスタンドがあり、日本軍は破壊を免れたガソリンスタンドや遺棄自動車からガソリンを抜き取って使用できたのが成功の一因でした。自動車化師団でない第18師団でさえ編制上は500台の自動車を持っていたそうですから、イメージとは違いマレー作戦は自動車化師団による機動力の勝利といっても良いでしょう。
 
 一方、インパール作戦では日本の国力の限界から自動車は師団の編制上の定数さえ満たすことはできずマレー作戦より劣勢な状態で臨みました。兵站もチンドウィン河・アラカン山系の悪路で自動車は使えず、牛馬も役立たないので作戦開始前から破綻していたのはご存知の通りです。
 
 
 本書は九七式戦闘機、九七式重爆、兵站自動車中隊の燃料消費量など貴重な資料が数多く載っており、それだけでも買いだと思います。俗に日本は兵站を軽視したから戦争に負けたと言われますが、本書を読めば日本は兵站を重視し日露戦争あるいは支那事変規模の戦争なら十分対応できたことが理解できると思います。ただ大東亜(対米)戦争ともなると日本の国力の限界から補給したくてもできない状態になったのです。例えば太平洋の孤島に補給するには大量の輸送船が必要だし、それを護衛する護衛駆逐艦海防艦護衛空母は必須です。資源も枯渇し、造船能力も劣る日本は補給したくてもできなかったのです。オペレーションズリサーチでもアメリカに負けていた日本は、敵の潜水艦被害により保有輸送船量+新造輸送船量が必要定数を下回り続けました。
 
 その意味で大東亜戦争は、日本の総合力がアメリカに負けたと言えるかもしれません。兵站に興味がある方には一読をお勧めします。