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幕末維新期、スペンサー銃が普及しなかった理由

 NHK大河ドラマ八重の桜を見ていた方は、主人公八重が兄山本覚馬から贈られた新式銃スペンサー銃で戦っていたシーンを覚えて居る方も多いと思います。ただ、私は日テレ年末時代劇『白虎隊』の大ファンなので山本八重は綾瀬はるかではなくスーちゃん(田中好子)のイメージが強いですし、八重と別れた最初の夫川崎尚之介も長谷川博己ではなく田中健なんですよ。ストーリー的にも八重の桜より段違いで白虎隊のほうが面白かったですしね。さすが杉山義法さんだと思いましたよ。

 それはともかく、スペンサー銃は元込め式のレバーアクションライフルでした。イメージが湧かない人のために説明すると、西部劇でよく出てくるガンマンやインディアンが使っているライフルです。元込め単発のスナイドル銃が出てきていたとはいえ、主力は先込め式で砲身にライフリングが施されているミニエー銃でしたから、ボルトアクションライフルのシャスポー銃と共にスペンサー銃はオーバーテクノロジーともいえる新式銃でした。

 発射速度は、レバーをコッキングすれば良いだけのスペンサー銃のほうがスナイドル銃より段違いに速いんですが、これが主力銃とならなかった理由があります。当時長州の村田蔵六大村益次郎)が日本で初めて採用したと言われる伏せ撃ちがやりにくいのです。長州兵の異様な動作に戦国期からあまり発展しておらず旧態依然とした幕府軍はとまどい「長州の伏せ撃ち」と呼んで警戒したそうです(司馬遼太郎花神』情報)。

 スナイドル銃は伏せたまま次弾を装填できますが、スペンサー銃はレバーをコッキングするために伏せ状態から一々横に転がる必要がありました。加えて、当時日本に来ていたスペンサー銃はライフル弾ではなく拳銃弾を使用していたので威力が弱かったそうです。レバーアクションライフルは装弾するのにストック側から細長いマガジンを入れるか、銃身の横から一発ずつ弾を込めないといけません。スペンサー銃の場合はストック側から7発のマガジンを装填する方式でした。

 当時の銃弾に詳しくないので間違っているかもしれませんが、現在の銃で考えるとスペンサー銃は拳銃弾を使うサブマシンガンくらいの威力しかなかったと思います。のちに0.58インチライフルマスケットと同等の威力の弾丸が使用できるようになったそうですが、軍隊で採用されなかったのは発射速度以外はボルトアクションライフルが優れていたからです。

 幕末維新期の日本では、当然スペンサー銃用の弾丸も輸入でしたから尚更使いにくかったと思います。値段も高くスナイドル銃の4倍の価格がしたと言われます。スペンサー銃を装備していたのは幕府歩兵隊、佐賀藩、黒羽藩(下野国那須郡大関氏1万8千石)くらいでした。新政府軍は、高価で威力も微妙なスペンサー銃ではなくスナイドル銃を主力小銃に採用したのも納得できますね。世界各国の軍隊でレバーアクションライフルが採用されなかったのも同じ理由です。

 帝政ロシア時代、騎兵銃としてウィンチェスターライフルを輸入したそうですが、レバーアクションとはいえ馬上で操作するのは簡単ではなく騎兵の評判も悪かったそうです。それ以外の国での採用例は寡聞にして知りません。

 レバーアクションライフルは狩猟用か西部劇で楽しむくらいが丁度良いのでしょうね。