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書評 「西南シルクロードは密林に消える」(高野秀行著 講談社文庫)

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 高野秀行さんは「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」がモットーの冒険家。西南シルクロードとは古代の蜀(四川省)から雲南省ビルマ北部を経てインドへ至る交易路のこと。私は良く知らなかったんですが、古代蜀地方は養蚕と絹織物発祥の地だとか。そういえば蜀錦は古代名高い四川地方の名産品ですよね。

 こういう歴史的経緯からも興味を覚えたんですが、何より通ったコースが凄い。戦史に詳しい方ならご存知だと思いますが、雲南からビルマに至る道はまさに援蒋ルート。そして雲南南部からビルマ北部のフーコン(死の谷の意味)谷地は我が皇軍菊兵団(第18師団)と龍兵団(第56師団)が米英支軍と血みどろの激戦を演じた地。

 しかもフーコン谷地のあるカチン州、シャン州はカチン族という少数民族ビルマミャンマー)政府に対し独立戦争を起こしているところです。まともなら文明人が生きて帰ることができない土地。中にはほんの数十年前まで首狩りの習慣を持っていた少数民族までいるところ!高野氏は、よりによってそのカチン族ゲリラに協力を頼むという離れ業で困難な旅行を実現します。幸いなことにカチン族は国際的同情を得るため外国人ジャーナリストにカチン州の実態を報道してもらいたいという願望があり、両者の利害が一致したために成功したのでした。

 何年にもわたってカチン族ゲリラとビルマ正規軍が内戦を繰り返しまともな道すらないところを、高野氏一行は進みます。低地はジャングルでヒルに悩まされ、高地は寒暖の差が激しく体を蝕みます。しかもゲリラ同士の内訌もあり、よく無事に抜けられたなと感心しました。よほど強運なんでしょう。雲南省からビルマに入り、北東インドのナガランド州に入ります。もちろん非合法な手段で不法入国、入国ビザもないためどこかで官憲に捕まったら懲役5年は食らうという危険がありました。

 インドに入ってもナガ族がインド政府軍と内戦を続け、高野氏は数々の困難に見舞われます。ただ文章がユーモラスなので一気に読み進めました。500ページ以上ある分厚い本ですが、文章の面白さで飽きることはありません。

 そして、インパール作戦で有名なナガランド州(州都はコヒマ)のディマプールから鉄道でインドのカルカッタに至ったとき日本総領事館に出頭(不法入国のため)、インド警察の捜査を受けます。ちなみにナガランド州の南にあるのがマニプル州で州都インパール。総領事は「努力はするが懲役5年は覚悟してくれ」と高野氏に警告します。ところがカルカッタのある西ベンガル州親日的なところで、まさか日本人がスパイ活動はしないだろうと強制送還だけで済みました。ここらあたりも恐ろしいほどの強運です。おかげでしばらくインド入国禁止になっています。

 結局、西南シルクロードを探検するというより北部ビルマと北東インド少数民族ゲリラの実態を描いたような変な本になりましたが、それでも興味は尽きませんでした。


 お暇な方は一読をお勧めします。暇つぶしには最高の本ですよ♪