高度10000mを570km/hの高速で飛行するB-29は、既存の日本戦闘機では全く太刀打ちできませんでした。そこで推進式プロペラを機体の後ろに持って行き空気抵抗を減らして高速化を図ったのが震電でした。
実はこの先尾翼機、あまり成功したとは言えません。アメリカでもカーチスXP‐55アセンダーという機体が試作されますが、劣悪な操縦性、低速時の安定性不良、スピードもわずか628km/hと既存機より遅くなったため開発中止になっています。
この手の機体で唯一ものになったのはスウェーデンのサーブJ-21だけ(たぶん)ですが、これも最高速度640km/hと同じDB605エンジンを搭載したメッサーシュミットBf109G型より性能が劣り微妙な機体になってしまいました。
こういう海外の例を考えると、日本の震電がはたしてものになったかどうか非常に疑問です。
震電は、エンジンにハ四三‐四二 空冷星型複列18気筒を採用しています。まずこのエンジンの冷却が一番の難題だったと思います。
J-21のように液冷エンジンなら、エンジンをどこに配置しようと冷却機をどこかに設ければ済むだけなので問題ありません。しかし空冷は空気取り入れ口の配置をよほど気をつけないとオーバーヒートしてしまいます。
通常の機体ならエンジンを一番前に配置するので冷却は問題ないんですが、先尾翼機は一番後ろに配置するだけに難しいです。強制冷却ファンを設けて冷やすという話もありますが果たしてどうでしょう?もしそれで成功したとしてもその分重くなってしまいます。
また通常の機体ならプロペラ後流で発生するはずの揚力も得られません。これでは離着陸時の安定性を悪くします。機体の形状から主脚を長くしないといけませんが、それは機体の脆弱性を助長しました。
あらゆる困難を克服して、実用化できたかというと私はとても無理だったと考えます。
しかし、この形状は機首に重武装(30㎜機関砲×4門)を施せるため非常に魅力的です。また空気抵抗の面から高速化にも都合が良いのです。
ではどうやったら困難を克服し、解決できるか?それはジェット化でした。実際スウェーデンのJ-21もジェット化されています。
実は、日本でも震電をジェット化する計画がありました。これは非公式には震電改と呼ばれます。実際に完成もしてないので想像にすぎませんが、ジェットエンジンを機体に1基載せるタイプ、Me262のように主翼にゴンドラ式でジェットエンジン2基を搭載するタイプなど様々なデザインが巷に出回っています。
計画だけで終わったので搭載するエンジンもネ130(推力900kg)、ネ230(推力885kg)など諸説ありますがエンジンそのものが完成していないので絵にかいた餅にすぎません。ちなみにネは「燃焼噴射推進器」の頭文字です。
現実的な案として橘花に搭載したネ20(推力475kg)を2基主翼にゴンドラ式で搭載するのが一番完成する可能性は高かったと思います。が推力があまりにも低すぎるため最高速度700km/hも出せなかったのではないでしょうか?ところで何故空気抵抗の大きいゴンドラ式かというと、当時のジェットエンジンは耐久力が低く頻繁に交換しなければならなかったからです。機体に内蔵すると交換に時間がかかりすぎます。
もしネ130かネ230が完成し、主翼下ゴンドラ式に2基あるいは機体内臓で2基搭載できたらとても優秀な戦闘機ができていたでしょうね。あくまで机上の空論ですが…。
夢想ついでに言うと、景雲改に搭載予定だったネ330(推力1320kg)なら1基で済んだかも?(苦笑)