イギリスには猫の公務員が居ます。冗談ではなくれっきとした職業です。正式名称は「グレートブリテンおよび北部アイルランド連合王国首相官邸鼠捕獲長」。年棒は日本円で1万8千円くらい。ほとんどエサ代に消えます。
実は首相官邸はじめダウ二ング街の政府官庁は古い建物が多く、改築して使い続けています。伝統といえば伝統ですが、そのために鼠が大量発生することがしばしば。困り果てたイギリス政府は、鼠を捕獲する本能を持つ猫を飼って鼠被害を防ごうと思いました。
チャーチル首相もネルソンとミュンヘン・マウザーという捕獲長を可愛がり…もとい起用して職務に当たらせたそうです。チャーチルは猫好きで有名で、なんとネルソンはチャーチルの膝の上で閣議に参加したり、ロンドン空襲の時は爆音で怯えたネルソンに対し「そんなことでは名前が泣くぞ」とチャーチルが諭したそうです。
チャーチルと猫のエピソードは多く、晩年自邸を寄付するときも愛猫ジャックの世話を条件に付けたくらいでした。
1997年労働党政権が成立しトニー・ブレアが首相に就任します。ところがそれまで鼠捕獲長を務めていたハンフリーが行方不明になりました。世間では労働党政権がハンフリーを謀殺したとか、ブレア夫人が猫嫌いで叩き出したとか噂します。これを真に受けた保守党議員は、労働党政権に敵愾心を抱き打倒を誓ったとか。
慌てたブレアは、「これは誤解だ」と釈明せざるを得ませんでした。ただブレア夫人が猫嫌いなのは事実らしく、ハンフリーは引退し2006年内閣府職員の家で天寿を全うします。
2011年鼠捕獲長に就任したのは動物保護施設上がりの白キジ猫ラリー。ラリーは社交的でオバマ大統領を出迎えたり、ウイリアム王子とキャサリン妃の結婚式ではユニオンジャックの蝶ネクタイで祝意を表明したそうです。
ラリーはメイ首相に代わっても健在らしく、動向が写真で紹介され国民に愛されています。ただ肝心の鼠捕獲は不熱心でそれが唯一にして最大の困りごとです(苦笑)。
鼠捕獲長のおかげで、動物保護施設から捨て猫を引き取る国民が増えてきたそうです。動物愛護という面では貢献していますね。これだけ愛されている鼠捕獲長ですが、パパラッチからコマドリの雛4匹の殺害容疑をかけられたりスキャンダルの洗礼も受けています。
伝統的に保守党政権のほうが鼠捕獲長に優しい傾向がありますが、メイの前のキャメロンだけは「ラリーを嫌っていたのではないか?」と悪しざまに言われました。キャメロンは誤解を解くために自分の膝の上に乗るラリーの写真を公開したそうです。これも無理やり乗せたのではないかと散々の言われようで、どちらにしろラリーではなくキャメロンが国民から嫌われていたのかもしれません。
ラリー氏のご尊顔がこちら。
たしかに本来の職務である鼠捕獲は余りやりそうではないですな(笑)。
追伸:こんな写真も
ちゃんと外交してますよ(笑)。