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北畠親房と常陸の南北朝Ⅰ    鎌倉末期の常陸

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 日本人の八割は源平藤橘の四大姓のどれかに属するそうです。私の個人的感想ではもっといそうな感じはします。むしろそれ以外の姓の方が貴重で、例えば古代豪族日下部(くさかべ)氏系の朝倉氏などは誇って良い家系だと思います。フィギュア選手の村主(すぐり)氏もおそらく百済系渡来人の末裔だと思うのである意味羨ましいと個人的には思います。

 前置きが長くなりましたが、もう少し余談が続きます。源氏の中で一番の家格を誇るのは村上源氏で、そのトップは清華家の久我(こが)氏です。懐かしの大女優久我美子村上源氏久我氏の末裔だそうで、世が世なら女優などという賤業に就くのは家門の恥だったでしょう。戦前は侯爵家のお姫様だったそうですよ。有名な清和源氏は、源氏一族のなかでは家格が低く当初は源氏の氏長者は久我氏が務めていたそうです。ところが清和源氏は武力を持って氏長者の地位を強奪し武家源氏の最初の氏長者は足利三代将軍義満でした。以後源氏氏長者は足利将軍、徳川将軍が独占しますがこれは名目だけで、実質的には久我氏が源氏氏長者としての祭祀を取り行っていたそうです。教養のない武家源氏に有職故実など理解できるはずもありませんからね。

 ちなみに清華家というのは最上位の摂家に次ぐ家格で極官太政大臣にまで昇る事の出来る家柄です。久我・三条・西園寺・徳大寺・花山院・大炊御門・今出川の七家が清華家でしたがのちに広幡、醍醐が加えられます。

 北畠氏は、村上源氏七代源(久我)通親の時、四人の子供がそれぞれ堀川氏(通具)、久我氏(通光)、土御門氏(定通)、中院氏(通方)を称した事から始まります。中院(なかのいん)通方の子雅家が洛北の北畠に住んだ事から北畠氏を称しました。村上源氏嫡流は通光の子孫の久我氏ですが、北畠氏は雅家の曾孫親房の時後醍醐天皇の側近となった事から急速に家格を上げ嫡流久我氏に匹敵するまでなります。

 北畠親房(1293年~1354年)といえば、神皇正統記を記した人、鎮守府将軍北畠顕家の父として有名ですがどのような事績を残した人かあまり知られていません。ですが調べてみると、意外とも思えるほどダイナミックな生涯を送った人なんです。今回のシリーズでは北畠親房常陸国(現茨城県の大部分。南部は下総の北半分が含まれる)の関わりを中心に記したいと思います。


 常陸国における南北朝時代の幕開けは1335年(建武二年)の甕(みか)ノ原合戦だと言われます。これも説明が必要で、当時の常陸の状況を記さなければなりません。鎌倉時代初期、清和源氏の名門新羅三郎義光常陸源氏の佐竹氏は、頼朝の鎌倉政権と敵対し一時滅亡の危機に陥ります。というのも平清盛の源氏分断策で源三位頼政や足利氏と同様平氏政権に優遇されていたからです。

 ただ常陸奥七郡(多珂郡・久慈東郡・久慈西郡・佐都東郡・佐都西郡・那珂東郡・那珂西郡)に勢力を持つ佐竹氏を滅ぼすことはできず、結局許され鎌倉幕府の一御家人として冷遇されました。平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて常陸で最大の勢力を誇っていたのは大掾(だいじょう)氏でした。平将門の乱を鎮圧した平貞盛伊勢平氏の祖)の弟繁盛から始まる家系で代々常陸国大掾職(国司の三等官)を世襲した事から大掾氏を称します。

 ところがこうした変革期には急速に台頭する一族が出るもので、宇都宮一族八田知家から始まる小田(おだ)氏は頼朝の鎌倉政権に急接近しまんまと常陸守護職を得ます。小田氏の家祖知家は、陰謀の限りを尽くして大掾氏に巧みに陰謀の嫌疑を掛け勢力を奪いました。知家は、この他にも常陸・下総・下野で古くから勢力を張る藤原秀郷流小山(おやま)氏を圧迫し常陸で最大の勢力を誇るまでになります。幸いにして小山一族には頼朝の側近で寵遇されていた結城(小山)朝光がいたため、大掾氏のように多くの所領を奪われる事だけは免れました。

 小田氏は鎌倉時代を通じて常陸で一番勢いのある一族でしたが、鎌倉幕府が滅亡するとそれまでの立場が逆転します。鎌倉時代に冷遇されていた恨みから佐竹氏はいち早く宮方に転じ足利尊氏が台頭するとすぐさまこれに乗り替えました。佐竹氏は尊氏から常陸守護に任命されます。小山氏も八代秀朝が新田義貞の討幕軍に加わり下野守護職を得ました。小山氏の分家結城氏は朝祐が足利尊氏六波羅探題攻めに参加し本領安堵を獲得しています。

 この間小田氏は迷走を続けました。最初は当然鎌倉方でしたが、元弘の変で常陸に流されていた万里小路藤房を小田治久が預かっていたことから、藤房を奉じて上洛し辛くも滅亡を免れます。ただ建武政権足利尊氏の対立が始まると強固な足利方の佐竹氏への対抗心から宮方に留まるのです。

 ここまでの前提条件を踏まえながら、甕(みか)ノ原合戦へと筆を進める事にしましょう。