アメリカの現用主力戦車にして世界最強という評価もある戦車です。もちろん異論は多く防御力ならメルカバMk4(あるいはチャレンジャー2)、攻撃力ならレオパルド2A6などという声もありますが、総合力ではナンバーワンじゃないかと個人的には考えます。(コストパフォーマンスならイタリア陸軍のアリエテでしょうが 苦笑)
ちなみに突っ込んでくる人がいると困るので(汗)、ここでいうM1戦車はM1だけではなくM1A1、M1A2、M1A3も含みます。
それまでの主力戦車M60パットンはM26パーシングからの発展型で何ら新機軸を持った戦車ではなく、続々と登場するソ連の新型戦車に対し不安でした。1970年代、西ドイツと共同して開発していたMBT‐70はそれに代わるものとして期待されましたが、両国の要求の違いなどで頓挫、1980年代に新たに開発された戦後第3世代戦車がこのM1エイブラムス戦車です。
当初はM60と同じ105㎜ライフル砲を装備していましたが、まもなく独ラインメタル社の44口径120㎜滑腔砲をライセンス生産したM256に換装されています(M1A1以降)。
105㎜砲装備のM1は1981年制式採用、武装強化版のM1A1は1985年から導入されています。
M1エイブラムスにはいくつかの特長がありますので簡単に紹介します。
◇防御力
英チャレンジャー戦車と同じチョバムアーマーを採用。ソ連製T‐62戦車の115㎜滑腔砲の高速徹甲弾の直撃に800mの距離で耐える事、あるいは127㎜級の対戦車ミサイルやHEAT(対戦車榴弾)の貫通を防ぐ事を目標に設計されたそうですが、まもなくソ連が125㎜滑腔砲装備のT‐72を開発したのでさらに防御力は強化されたそうです。そのために当初のチョバムアーマーは、劣化ウランを挟んださらに強化版の複合装甲に換装されています(M1A1HA、M1A2以降)。
エイブラムスの硬さを表すエピソードは湾岸戦争などで多く語られているのでここでは書きません。
◇機動力
世界に先駆けてガスタービンエンジンを採用。機動力が強化されています。ただ資料を見ると0→32km/hの加速力は7秒(M1A1は6.8秒)でレオパルド2の液冷ディーゼルエンジン1500hpと変わらないんだよなあ(苦笑)。
前のM60の15秒からは倍以上になってますが…。静粛性はディーゼルよりはあるのでメリットはあると思います。ただガスタービンは燃費が悪いのが玉に傷。アメリカのような金持ち国じゃないと運用できません(笑)。
◇攻撃力
44口径120㎜滑腔砲に3500mの探知距離があるサーマルサイト(熱映像装置)、当時最先端の射撃統制装置 (FCS) を採用し初弾命中率90%以上を誇ります。湾岸戦争では夜間に800mの探知距離しか持たない旧式赤外線暗視装置装備のソ連製T‐72を夜戦でワンサイドゲームで撃破しています。ある戦例では夜間移動中のイラク軍戦車大隊(80両)を発見した米軍M1A1戦車1個中隊(20両弱)が、夜明けまでに全両破壊、自軍損害ゼロというパーフェクトゲームを演じています。
ただあまりに見えすぎるため同士撃ちも起こっています。湾岸戦争当時敵味方識別装置が行き渡っておらず、遠くの戦車を敵と誤認して射撃したケースが多かったそうです。1500mまで近付けばシルエットで識別できたそうですが、戦場心理なのでしょう。皮肉な事に湾岸戦争におけるM1A1エイブラムスの損害は同士撃ちによるものが圧倒的に多かったそうです。
◇生存性
これは防御力にも関係してくるんですが、エイブラムス戦車はダメージコントロールもしっかりしています。戦車の弱点は装甲の薄い背面や側面です。エイブラムスは例えばエンジンに敵砲弾が直撃しても緊急消火装置が働いて脱出の時間が稼げるそうです。また、砲塔後部には弾倉がありますが、敵砲弾が当たると上部が吹き飛んで爆風をそらし大事に至るのを防ぐそうです。戦闘室との間は分厚い装甲板で隔てられ砲弾を取りだす時は2秒間だけ弾倉の蓋があくので、その間にすばやく砲弾を取りださないといけません。不器用な戦車兵は指を挟みそうですね(爆)。湾岸戦争では、戦車は破壊されても意外と死者は少ないそうです。M1エイブラムスのサバイバル能力の高さが伺えますね。
実戦で裏打ちされたM1エイブラムス戦車、総合力では実力ナンバーワンと思いますが皆さんはどうお考えですか?