南宋の都、臨安を舞台に巨魁・秦檜に挑む二貴公子の活躍を活写!
臨安で漕運(そううん)(水運業)を営む夏家の二貴公子・風生(ふうせい)と資生(しせい)。年は若いが思慮にとみ「少爺」と呼ばれる風生と、闊達で真直ぐな資生は、強い信頼で結ばれた従兄弟同士である。
名将・岳飛(がくひ)を陥れた巨魁・秦檜(しんかい)、風生を慕う臨安随一の妓女・王雲裳(おううんしょう)など魅力的な登場人物を配し、壮大にして繊細に描く武侠小説の傑作!
- 内容紹介より -
古本屋で安く(105円)手に入れた小説です。あまり期待してなかったんですが、意外と面白い本でした。
何よりもこの作者、文章が上手いですね。スピード感があって一気に読めます。そして歴史観もしっかりしています。
物語の大きなバックボーンとして南宋初期の政界、とくに後世売国奴の典型と言われた秦檜が大きな存在として出てくるんですが、作者なりの歴史解釈には感心しました。
詳しくはネットや本で調べて欲しいんですが、忠臣岳飛を処刑したのは、本当に秦檜だけの一存だったのだろうか?と作者は疑問を投げかけるのです。
そして、当時の状況から北宋最後の皇帝欽宗が生きているのに(靖康の変で金に拉致されていた)即位した高宗(欽宗の弟)にとって、岳飛の言う奪われた淮河以北の旧領の回復は迷惑以外の何物でもなかったという考察はとても理解できます。
岳飛は高宗に忠誠を誓っているのではなく宋国そのものに誓っているため、もし欽宗が帰国したら自分ではなく欽宗を担ぐのではないかという疑心暗鬼が南宋宮廷内にあったと作者は推理します。そして兄が帰国したら、高宗は簒奪者として殺されないまでも一生幽閉される可能性があり、そのような結果になる北伐を主張する岳飛が邪魔になったのではないかと考えています。
岳飛の処刑は、秦檜の一存ではなく高宗をはじめとする南宋宮廷の意向であったという作者の推理はとても納得できました。しかしまさか皇帝を悪役にするわけにはいかないので、宰相であった秦檜だけがスケープゴートにされたのではないかという主張です。
まあ、この物語の基本は能天気な(失礼)武侠小説なんでそれを楽しめばいいんですが、作者の深い歴史観に裏打ちされているので深くも読めるというコストパフォーマンスに優れた一冊と言えます!