鳳山雑記帳はてなブログ

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ナスィールッディーン・トゥースィー 天幕のジャードゥーガル、ムハンマドのモデル

 私は一つの事に興味を持つと、とことんまで調べないと気が済まない性質でして、それでいて飽きっぽいという悪癖を持っています。今のところ天幕のジャードゥーガルにどっぷりはまっているのでしばらく関連記事が続くかもしれません。

 といって原作は知らないのであくまでアニメ版に基づくのはあらかじめお断りしておきます。さて、主人公シタラが奴隷として仕えたトゥースの学者一家の跡取り息子ムハンマドですが、イラン北東部ホラサン地方の大都市ニーシャープールに留学に行ったとき、モンゴル軍の襲撃を受け町は焼かれ行方不明になりました。第1話のナレーションで後に大学者となるとあったので生き残ったのは間違いないのでしょうが実は彼にはモデルがいるんです。

 その名はナスィールッディーン・トゥースィー(1201年~1274年)。トゥース出身でシーア派を代表するペルシャ人神学者です。しかも哲学、数学、天文学にも通じる13世紀を代表する大学者でした。天幕のジャードゥーガルの原作者トマトスープさんはこの事実を知っていてシタラが仕える学者一家の家をトゥースに設定したのだと思います。トゥースィーの本名もムハンマドでした。

 トゥースの町は、ホラサン地方にあるイラン第二の都市マシュハドの北北西20㎞にあり少なくとも5世紀には存在した古都です。ただし現在の町はモンゴル軍破壊の後再生した町で、当時の面影はほとんど残っていないと思います。中央アジアや中東には似たような境遇の町が多く、サマルカンドやニーシャープール、メルブ、バルフなども同じ運命を辿りました。それを考えるとモンゴル帝国というのは碌な国ではありませんね。遊牧国家は残虐なのが常ですが、モンゴル軍の征西で犠牲になった数は一節には1000万人を超えるとも言われ本当に迷惑な存在でした。

 アニメでも描かれていましたが、モンゴル軍は抵抗した町には容赦なく、役に立つ職人と性奴隷にする若い女性以外は、老人子供も容赦なく虐殺しました。ニーシャープールなどはホラサン地方一栄えた大都市で当時人口170万人を数えたそうですが、包囲したモンゴル軍の将軍トクチャを矢で射殺した報復で、4日間徹底的に破壊され殺害した住民の頭蓋骨をピラミッド状に重ねた所謂京観がいくつも作られたそうです。おそらく何十万人単位の大虐殺が行われたのでしょう。

 京観は遊牧民の風習だと思いますが、実は古代シナでも行われました。ただ、私は東洋史学者岡田英弘氏が主張するように、東夷西戎南蛮北狄の異民族が中原に集まり交易をするために共通言語の漢語を作り出したのが漢民族の始まりだと思っていますから、すくなくとも遊牧民の北狄、牧畜民の西戎の血が半分は入っているわけです。

 前置きが非常に長くなりましたが本題に戻すと、トゥースィーもアニメのムハンマドと同じく故郷トゥースの町を離れニーシャープールに留学していました。しかしモンゴル軍来襲の直前、ホラサン南方クヒスターンのニザール派(暗殺教団)太守ムスタシャルに招かれていて九死に一生を得ます。

 ただその後も苦難は続き、暗殺者教団の教主アラーウッディーン・ムハンマドの不興を受け教団の本拠アラムート城近くの城砦に幽閉されました。一説では高名な学者として名高かったトゥースィーがムスタシャルの庇護下にあることを嫉妬した教主ムハンマドが自らの下に赴くよう命じたのに、トゥースィーが拒否したのが怒りを買って拉致されたとも言われます。

 その後、許されたのかトゥースィーはニザール派の庇護を受けたようですが、1253年またしてモンゴル帝国第四代モンケハーンの弟フラグによる攻撃を受け二ザール教団は壊滅してしまいます。さすがにこの時は前回のような大虐殺は起こらなかったと思いますが、高名な学者として名高かったトゥースィーは、イランの地にイル汗国(フラグウルス)を建国したフラグに招かれ学者として仕えることとなります。

 自分の親兄弟を無残に殺したツルイの息子であるフラグに仕えるのはトゥースィーにとっては複雑な心境だったでしょうが、断ったら殺されることを思えば仕方なかったのでしょう。トゥースィーはフラグの下でマラーガ天文台を建てるなどさまざまな文化貢献しました。中でも1272年惑星の位置を計算し恒星の名を記した天文表「イルハン天文表」を作成したのが最大の功績でしょう。

 1274年、天寿を全うしトゥースィー死去、享年73歳。戦乱の世を生き延びた偉大なる学者でした。

 

 

 

追伸:

 わざわざ別記事を書くのもなんですのでついでに紹介すると、天幕のジャードゥーガルの主人公シタラのモデルになったファーティマ・ハトゥンですが、最初はモンゴル軍の例にもれず性奴隷としてモンゴルの首都カラコルムに拉致されたようです。ところがどう立ち回ったのか、持ち前の才覚を生かしオゴタイハーンの皇后ドレゲネに気に入られ側近として取り立てられました。

 その後、本来は大ハーン位継承の資格がないドレゲネの子グユク(オゴタイの庶子)の即位に陰謀の限りを尽くします。しかしそれが逆に帝国内で正当な大ハーン位継承者だと見られていたモンケ(ツルイの長男)一派の怒りを買い、頭の悪いグユクを使嗾してまずドレゲネの側近ファーティマ・ハトゥンから除こうとなり、魔女の汚名を着せて逮捕しました。ファーティマは水も食事も与えられず拷問の末、無実の罪を告白します。処刑の仕方も凄惨で、体の穴という穴(目とか耳とか鼻と肛門とか性器とか)を糸で縫い合わされフェルトにくるまれて河に投げすてられました。

 原作とかアニメでそこまで描くかは知りませんが、史実通りだとどろどろとした権力闘争になりそうで、一般視聴者は引くかもしれませんね。私の場合こういう権力闘争は大好物なので最後まで見ます(笑)。