この前たまたま本屋に立ち寄ったら、おもわず「空海の風景(上・下)」「氷川清話」「歴史毒本」を衝動買いしました(爆)。空海は別に紹介するとして、他の二冊は海舟がらみです。
とくに、歴史の裏話を紹介した「歴史毒本」で、勝海舟に関するとても気持ちの良いエピソードを発見したので、ご紹介します。
慶応四年、勝は陸軍総裁に就任し麹町3丁目の幕府陸軍駐屯地をふらりと訪れました。ちょうどその時、フランス式歩兵術の専門家、大鳥圭介が部下に演説していました。
大鳥は、ナポレオン戦争におけるロシア軍の焦土戦術を解説し、このように徹底抗戦しなければならないと意見を述べていました。
勝は、しばらくこれを聞いていましたが、つかつかと近寄って、さりげなく口を切ります。
「いまの大鳥さんのお講義はたいへん結構だ。時間がねえんで、ひとつだけ私の意見を言っておこう。戦術として自国の首府を焼く、そういうこともあろう。だがネ、そのために何人の人が家財を灰にし、無辜の民が何人殺されたかを考えなきゃいけねえよ。
モスクワでは、数が八万とも十万とも言うわさ。誰がこの戦術を考えたか名前は忘れたが、プロシア(今のドイツの一部)の参謀なんさ。外国人だから平気でよその国の首府を焼き尽くす事ができたんだ。自分の国のなかで、これができるか?あんたら上級士官は、よく考えてみておくれ。」
いかがです、勝の思想がこの言葉に凝縮しているように思うのは、私だけでしょうか?勝海舟は「江戸無血開城」で有名ですが、ちっぽけな幕府の面子にこだわらず、当時100万以上いた江戸市民の生命を守ったのです。
もちろん勝だって命がけでした。無血開城に応じたため、裏切り者、武士道に反した卑怯者と命を狙われます。しかし、勝は刀の鯉口を縛り、けっして抜かないことを己に課していました。剣客としても有名な勝でしたから、抜けば必ず暗殺者を斬っていたでしょう。それさえも、避けようとした勝の覚悟は、なんと立派でしょう。
勝海舟と、その愛弟子坂本竜馬、二人の偉大な日本人を生んでくれた歴史に感謝します。