臼砲というのは迫撃砲と同じく曲射弾道を描く大砲です。ところがこの九八式臼砲はどうみても大砲には見えません。それもそのはず、このタイプをスピガットモーター(差し込み式臼砲)と言うそうです。弾体と発射台だけで砲身がないので日本では「ム弾」あるいは「無砲弾」と呼びました。
二十糎や四十糎の噴進砲(ロケット砲)とともに硫黄島の戦いで活躍した火砲です。実は硫黄島の戦いにおける日本軍(小笠原兵団第109師団)は、従来の師団の4倍以上の火力を集中しました。これは重火力で定評のあるソ連の狙撃師団と比べても倍以上の火力でした。
九八式は実に口径320㎜という巨砲で、噴進砲に比べ安定翼がある分弱冠命中精度は上がりました。といってもどこに飛んで行くか分からないロケット砲と比べればという話で、もちろんカノン砲や榴弾砲と比べれば大きく劣ります。
射程は短い(1200m)ものの口径32cmという大きさのため威力は絶大で、シンガポール攻略戦で実戦投入された時英軍を圧倒するとともに、皇軍将兵の士気高揚にも大きく寄与しました。硫黄島でも独立臼砲第20大隊の12門が投入され絶大な威力を発揮します。九八式臼砲は、秘匿性と大火力から硫黄島のような狭い戦場での防御戦に最も適する兵器でした。