ネットで話題の本だったので、遅ればせながら読ませていただきました。
第2次大戦で海軍善玉・陸軍悪玉論がはびこる中、海軍の創建以来の致命的欠点(グランドデザインのなさ、後方兵站の軽視、そこから来る誤った艦隊決戦思想、艦隊保全主義、通商破壊戦の軽視 などなど)を指摘した好著です。
まあ海軍に関しては仰る通りで、帝国海軍贔屓としては耳の痛い話なのですが陸軍について気になった点がいくつかあります。作者は陸軍士官学校出身で海軍憎し、陸軍大甘の記述にはかなり違和感を覚えました。
①「陸軍は海軍の無責任論に引っ張られてやむなく開戦した」
いやいや少壮の軍事官僚が政治に口出し、国政を誤らせたのは陸軍のほうでしょ?そもそも支那事変で自ら泥沼に陥っていた陸軍に海軍を批判する資格はない。国の運命を誤らせたのは陸軍の責任のほうがはるかに大きいはずですが…。
おいおい、無責任なこと言ってもらっちゃ困るな。地上戦をするのは陸軍ですよ。補給を重視するのなら作戦実行前に海軍と十分協議するべきでしょ。それもせずに責任を海軍だけに押し付けるのもどうかと思いますよ。
③「インパール作戦はそれほど無謀な作戦ではなかった」
本書で一番失笑したところはここ。著者の主張はチャンドラボーズのインド工作を言っているんですが、それはあくまで政略。軍事作戦上、これを無謀といわずして何を無謀というのか?あんた本当に陸士出身?って聞いてみたいくらいですよ。あれだけ海軍の兵站軽視を攻撃してた人間とは思えない擁護っぷり。
15軍司令官の牟田口だけではなくその上級司令部まですべて連帯責任だと思います。これでは死んでいった英霊たちが浮かばれませんよ!(激怒)
もう死んでくれレベルです。泥沼にはまっている支那戦線が南北の連絡線を打通したくらいで好転しますか?陸軍の計画では占領後、鉄道を敷いてベトナムから支那大陸を南北に走り朝鮮半島に達する補給路を構築する計画だったそうですが、そもそもそんな資材ないでしょ?というかそんな無駄なことするくらいなら戦車と大砲をもっと作らんかい?奇跡的に出来たとしても支那便衣隊(ゲリラ)の格好の攻撃目標でしょう。
マリアナ諸島を早くから要塞化して絶対国防圏にすべきだったという主張は納得しますがね。
あ~書いててだんだん腹が立ってきた!
本書の指摘する通り海軍に関しては仰る通り、ただ陸軍に関しては身贔屓がひどくてとても読めた代物じゃない、ってとこが正直な感想です。同じ陸士出身でも大橋武夫さんはあれだけ客観視できるのにね。陸軍軍人上がりでも人間の器の差でしょうか?
この本、陸軍に関する記述は無視していいです。こんな与太話信じるほうがかえって真実を捻じ曲げます。
アマゾンの書評を見ても、歴史に疎い人には高評価ですがある程度戦史に詳しい人は評価していません。ですから今後この本を読もうとする人は別の本でだいたいの戦争の流れを把握してからのほうが望ましいでしょう。でないと作者の詐術に騙されますから。
あ~それから思い出したんですが、「海軍がなぜガタルカナルに固執したのか分からない」っての賜ってますがね。あれは米豪遮断作戦の一環で、あの島から二式大艇の哨戒圏内で米豪連絡線を遮断できるからでしょ?そんなことも知らないの?一応意味はあったんだよ。それが維持できるかどうかは別問題だけどね。
まあ読んでて腹の立つことはいっぱいありますが(爆)、海軍に対する指摘はなかなか鋭く面白かったことを付け加えます。えっ?いまさら遅いって???知るかボケ!