誰も興味ないでしょうが、アルメニアとアゼルバイジャンの紛争勃発以来ずっとこの戦争とその背景を調べています。ですから興味のない方はスルーしてください。
アルメニアが実効支配するアゼルバイジャン領ナゴルノ・カラバフ自治州の奪還を目指して始まった今回のアルメニア・アゼルバイジャン戦争。同地区はアルメニア人が多く住み、昔から両国の間で領土紛争が絶えない地域でした。ところがソ連成立時、同自治州をアゼルバイジャン領にするという裁定が下ったためアルメニア人は恨みます。ソ連崩壊後の1990年代アルメニアがアゼルバイジャン領に侵攻する形でナゴルノ・カラバフ戦争が起こりました。この戦争で約3万人が死亡し100万人が避難したそうです。アルメニアが同地区を実効支配し現在に至るわけですが、アルメニア人が多いとは言ってもアゼルバイジャン人も住んでいたわけで、はっきりとは分かりませんがアルメニアによるアゼルバイジャン人の民族浄化が行われたのではないかとも言われています。
ですからアゼルバイジャン側は、奪われた領土を奪還する機会を虎視眈々と狙っていたのです。イスラム教のアゼルバイジャンにはトルコが付き、アルメニア教会のアルメニアには同じキリスト教のロシアが背後にいます。ただ解せないのはアゼルバイジャンはイスラム教徒とはいえシーア派、スンニ派の巨頭であるトルコはどうして支援しているのか?バクーの石油利権だとしか思えません。同じシーア派のイランは何故かロシアと組みアルメニアを後押ししているようで、ぐちゃぐちゃになっています。敵の敵は味方という発想なのでしょう。
戦争に関しても疑問があります。アルメニアとロシアの間には、南オセチア紛争で対立したばかりのグルジア(ジョージア)があり、現代戦の要であるロシアからの補給路は使えません。グルジアが通過を認めるはずがないからです。ということは、イランルートしかなく、この事実が発覚したら重大な国際問題になります。
一方、アゼルバイジャンとトルコの間にもアルメニアがあるため補給路は使えません。空輸にも限度があります。一説ではアゼルバイジャンで両国が軍事演習し、トルコ軍が使用した兵器をそのまま現地に置いてきたという話もあり、だとしたら相当前から計画されたものだったんでしょう。一応、アゼルバイジャンの飛び地であるナヒチェヴァン自治共和国とトルコは幹線道路一本でかろうじて通じていますが、そもそもナヒチェバンはイランの庇護下にあるためアルメニアがおいそれとは手出しできないそうです。ですから同地域にトルコが兵器を持ちこんでもアゼルバジャン本国に運ぶにはイラン領を通るか空輸しかないため、補給が厳しいのはアルメニアと同様です。
複雑なのはイラン北部にもアゼルバイジャン人が1000万人以上住んでいると言われ、アゼルバイジャンが余りにも力を持ちすぎるとイラン領内のアゼルバイジャン人が本国と統合を言い出しかねないためイラン政府は警戒しています。このため、宗教の対立を超えアルメニアに肩入れしているそうです。同じイスラム教徒とはいえ不倶戴天の敵であるはずのトルコとアゼルバイジャンの協力ですが、これは宗教というよりトルコ系民族として汎トルコ主義の連帯を意識しているという声もあります。
このあたりクルド人と状況が似ていますね。このようにアルメニア・アゼルバイジャン戦争は民族対立、宗教対立、経済対立、周辺諸国とのパワーバランスなど様々な要素が複雑に絡み合っているため一朝一夕で解決できるはずがありません。戦争の行方がどうなるのか、ロシアとイランの動きはどうかなど不確定要素が余りにも多すぎます。
もしロシアが本格介入したらトルコとの全面戦争にもなりかねませんし、イランがロシアのアルメニア軍事援助に加担していることが発覚したら重大な国際問題になります。この戦争、本当に目が離せなくなりました。
追伸:
両軍の兵站について考えてみました。発覚したら重大な国際問題になるとはいえイランルートが使えるアルメニアは兵站に関しては問題ないと言えます。一方、アゼルバイジャンですが、陸路でトルコから飛び地のナヒチェヴァン自治共和国までは軍需物資を運び込めるとして、イランが通過を認めないでしょうからアゼルバイジャン本国には空路しかありません。アメリカ陸軍機甲師団の1日物資消費量は最低でも3000トン必要です。アゼルバイジャン軍はここまでは機械化されてないでしょうから、一応1個師団(約2万人)の1日物資消費量を1000トンとしましょう。アゼルバイジャン陸軍は10万3千人で、空軍もいますから全体で12万人くらいでしょうか。師団換算で6個師団分、1日物資消費量は6000トン要ります。
アゼルバイジャン空軍の輸送機は40トン搭載できるIL-76を保有していますがわずか3機。その他の輸送機合わせても10機もいません。これでは到底兵站を維持できません。トルコ空軍も37トン積めるエアバスA400がありますがわずか10機。他にロッキードC-130なども保有していますが、到底数が足りません。約20トン積めるC-130で換算してもアゼルバイジャン軍1日の兵站を維持するには300機必要でとても現実的ではありません。加えて輸送機の航空燃料も莫大ですからトルコがそこまで意地になってアゼルバイジャンを助けられるかどうか?
一番良いのはアゼルバイジャン軍が補給の尽きるまえにアルメニア領南部を占領して飛び地のナヒチェヴァン自治共和国との間を打通することですが、山岳地帯は防御側に有利でアルメニア側も当然予想しているでしょうから難しいと思います。
となると補給が続く間にアゼルバイジャン軍がナゴルノ・カラバフ地区の要地を占領できるかどうかが勝敗のカギになりそうです。長引けば長引くほどアルメニア有利になります。ただアルメニアのアキレス腱はイランルートが発覚した時です。国連制裁を受けているイラン、イランルートを利用しているロシアに対する国際非難は避けられません。下手したら第3次世界大戦のきっかけになるかもしれません。グルジアが敵の敵は味方理論でトルコ・アゼルバイジャン側に付くかもしれませんし、これまでロシアに押さえ込まれていたチェチェン人が再び蜂起するかもしれません。
今書いていて思い出したんですが、アゼルバイジャンにはカスピ海ルートがありました!トルクメニスタンが汎トルコ主義に同調し支援に乗り出すと、海路を使えますからアゼルバイジャン側に有利になります。というかすでにこのルートは開拓済みかもしれません。でないと戦争に踏み切れないでしょうから。
国際情勢はまさに複雑怪奇。皆さんのご意見をお聞かせください。