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世界史英雄列伝(28) 藺相如 後編 - 刎頚の交わり -

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 澠池(めんち)の会盟での功績により、藺相如は上卿に親任されます。将軍の廉頗より位が上になったのです。
 「わしは、趙の大将として攻城野戦に大功を立ててきた。しかるに藺相如は口先だけの働きでわしの上の位におる。それに相如はもともと卑しい身分の出じゃ。わしは恥ずかしい。今度あやつと会ったら恥をかかせてやるつもりじゃ。」
 この廉頗の発言をうわさで聞いた藺相如は、顔を合わせるのを避け、朝見の日も病気といって廉頗と席を争うのを望みませんでした。
 外出しても、向こうから廉頗が来ているのを見つけると、車を引き返し、徹底的に避けました。何日かこのようなことが続くと、藺相如の近侍たちがあきれて申し出ました。
 「わたしどもが、お側にお使えするのは殿様の高義を慕ったためでございます。しかるに殿様は廉頗様と同列でいらっしゃいますのに、悪口のうわさを聞かれただけで、怖れて逃げ隠れされておられます。なみの者でも恥ずかしいと思いますのに、大臣大将であったらなおさらです。わたしどもは愚かでございますから、どうかお暇をいただきとうございます。」
 これに対して、藺相如はこう答えました。
 「そなたたちに尋ねるが、廉将軍と秦王とどちらが恐ろしいと思うか?」
 「それは秦王でございましょう。」
 「そうであろう。私はあの秦王の威勢でさえ、宮廷のまんなかでしかりつけ、群臣に辱めを与えた。私は駄馬のごとくあろうが、なんで廉将軍を怖れるものか。ただ、考えてみるに秦がわが国に手を出せないのは廉頗殿と私がいるためだ。両者が争えば、どちらかが死ぬ事になるかもしれない。そうなれば秦に利するばかりではないか。私が逃げ隠れしているのは、国家の大事を優先しているだけで、廉将軍を怖れているわけではない。」
 「わたしどもが間違っておりました。」近侍たちは平伏します。

 これを伝え聞いた廉頗は、己の発言が愚かだったことに気付かされました。肌ぬぎとなって荊(いばら)の鞭を背負い、客を介添えにして藺相如の屋敷を訪問して謝罪しました。
 「それがしが間違っておりました。性根の卑しいそれがしを、藺相如殿がこれほどまでに心広く扱ってくださろうとは存じ上げておりませんでした。どうか愚かな私を思うまま罰してくだされ。」
 これに対して、相如は静かに手をとって言いました。
 「分かっていただけたのなら、それでよろしいのです。これからは趙国のため、共に力を尽くしていきましょう!」
 廉頗は感激して涙を流しました。そして両者は心おきなく歓談して、『刎頚の交わり』を結びます。これは互いのためなら、たとえ頸を切られても本望だ、という関係でした。二人の友情は藺相如が病気で死ぬまで続きます。そして二人が健在の間は、秦はあえて趙に手を出すのを控えたといいます。