軍事や戦史に興味のない方はスルーして頂いたほうが良いですが、冷戦期のソ連陸軍の軍事ドクトリン(戦闘教義)から組織、各種兵種の編制、運用まで網羅した名著です。さすがに師団や旅団、連隊などの編制表は載っていませんでしたが文章で書かれていたので内容は分かります。ただその内容はマニア狂喜で例えば戦車大隊なら将校、下士官、兵の数、戦車やその他の車両の装備定数に加えその基本的運用まで記す恐ろしさ。
冷戦期によくここまで詳しく調べたなと感心します。本書を見ているとソ連製兵器の技術に関しては中東戦争でイスラエルが鹵獲したアラブ軍のソ連製兵器が役立っているようですね。さらに中東戦争、ベトナム戦争を通じでソ連の軍事ドクトリンの優れた点と欠点まで考察してあります。
私が驚いたのは、冷戦期193個師団もあったソ連軍+ワルシャワ条約機構軍の膨大な戦力を西側がどのように防ぐかの考察です。冷静に考えると分かるんですが、ソ連軍最大の弱点はロジスティクス(兵站)で、敵の攻勢を最大でも二週間凌げばソ連軍の師団は補給の限界を超えて戦闘力を失うというもの。
現在世界最強の米陸軍が現役師団を10個前後しか維持できないのもロジスティクスが原因ですから、その意味では当時のソ連軍の実情も分かります。アフガニスタン戦争で数個師団維持するのにも国力を消費し結局はソ連崩壊に至ったのは当然でした。アメリカの場合だと兵士1人に対し後方要員が2000人必要だそうです。ソ連軍はここまではないでしょうが、193個師団を維持するのは並大抵ではなかったはず。
興味のない方には無価値でしょうが、もし興味がある方は読まれることをお勧めします。1987年と非常に古い本でおそらく状態の良いものは少ないと思いますが、是非一読してください。