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斎藤道三Ⅲ  美濃乗っ取り

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 美濃国の守護所は、美濃国第三代守護土岐政康が築城して以来革手(川手、岐阜市正法寺町)城でした。平城でしかも居館造りでありながら旧木曽川と荒田川にはさまれた天然の要害で、守護の統治所としてふさわしい場所です。城下町川手は繁栄し、キリスト教宣教師が同地を訪れた時その繁栄ぶりを書き記したくらいでした。

 守護代斎藤利良に対し、長井藤左衛門尉(越中守とも称す)長弘は小守護代と呼ばれます。最初池田郡白樫を本拠としていましたが美濃統治に不便なので長良に居館を構えます。その詰めの城が稲葉山でした。長弘が築城する前は小規模な砦があったそうですが、この時初めて美濃国で重要な城となりました。ところで稲葉山城長良川に北麓を削られる急峻な山城でしたが、何故この地に誰も築城しなかったかというと山容が痩せており風水的に城主が不幸になる土地だったからだと言われます。一概に迷信と片付けられないのは、その後城主となった斎藤道三織田秀信などの最期を知っているからです。信長も安土に移ったとはいえ最後は悲惨でしたよね。

 西村勘九郎は、土岐頼芸に仕えることとなりました。頼芸を後見していたのは小守護代長井長弘でしたから、直接的には長弘に仕えることとなります。永正十四年(1517年)病気がちだった美濃守護土岐政房は隠居しました。その家督を巡って長男政頼を推したのは守護代斎藤利良、次男頼芸には小守護代長井長弘がつき、両派は互いに争います。この時は正当性のある政頼派が勝ち、政頼が土岐家督守護職を得ます。

 面白くないのは弟頼芸でした。この頃完全に頼芸の寵臣となっていた勘九郎は、主君に向かって政権奪取のクーデターを勧めます。とんでもない家臣もあったものですが、勘九郎の最終計画のためにはどうしても暗愚な頼芸に美濃守護になってもらわないと困るのです。

 クーデターの陰謀が着々と進む中、一つのエピソードがありました。ある時頼芸は宴席の酒肴で寵臣勘九郎に「屏風の虎の目を槍で衝いてみせよ。成功したらなんなりと褒美を取らす」と命じました。
すると勘九郎は、
「でしたら殿が御寵愛の側室深芳野殿を賜りとうございます。もし失敗したら庭先をお借りて腹かっさばく所存」と申し出ます。

 座興ではあれ自分が申し出た事ですから頼芸は渋々ながらもこれを認めました。遊びで自分の運命が決められるのを見て深芳野の内心はどうだったでしょう?勘九郎は見事屏風の虎の目を貫き深芳野は彼のものになりました。

 大永七年(1527年)、着々と美濃の国人層に工作を重ね味方につけていた頼芸陣営は突如蜂起、革手城に守護土岐政頼を攻めます。軍勢を指揮するのは西村勘九郎。突然の奇襲になすすべがなく政頼は越前の朝倉氏を頼って亡命しました。同じ年、深芳野は勘九郎の長男義龍を生みます。ところが、深芳野は勘九郎のもとに来る前すでに身籠っており、義龍は土岐頼芸の子だったと伝えられます。勘九郎が気付いていたかどうかですが、おそらく知っていたでしょう。その上で、自分の安全策として沈黙を守りました。

 こうして土岐頼芸は、西村勘九郎のおかげで土岐家督守護職を得ます。しかし暗愚な頼芸に美濃を統治する力はなく勘九郎が実質的に美濃を支配しました。勘九郎は自分の権力を盤石なものにするため、自分を引き上げてくれた恩人守護代長井長弘の追い落としを図ります。これが蝮と言われる所以ですが、勘九郎長弘に謀反の濡れ衣を着せて攻め殺したというのは俗説で、『岐阜県の歴史』によると病死説も取り上げています。

 ただ長弘の後を継いだ息子景弘を勘九郎が殺した可能性は高く名門長井家は断絶しました。天文二年(1533年)勘九郎は頼芸に頼み、長井家を継ぎ長井新九郎規秀と名を改めます。さらに天文七年(1538年)には正当な美濃守護代斎藤利良も亡くなりました。これも陰謀の臭いがしなくもないですが、規秀は斎藤氏を継ぎ斎藤左近大夫利政と名を変え美濃守護代に収まります。

 傀儡の守護頼芸を頂き、美濃の実権を握った利政。しかし彼の強引なやり方は美濃国人の猛反発を食らいました。斎藤氏や長井氏に所縁の者も多く、さらには守護土岐家を蔑ろにする利政は蛇蝎のように嫌われます。美濃国人たちは、利政追放を叫び一斉に蜂起しました。その数一万を超えていたそうですから、利政の嫌われ具合が分かりますね。

 おろおろする頼芸を冷静に見ていた利政は、突如頭を丸めて革手城に出仕します。出家して道三と名乗った利政は、自分が引退し美濃を去る条件で反乱軍を納得させます。こうして美濃国乗っ取りは失敗したかに見えました。道三は、京都山崎に戻り油商人山崎屋として余生を送るはずでした。

 ところが、外的要因が再び道三を美濃に呼び戻す事になります。次回宿敵に御期待下さい。