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ボーイングB-52の心理的効果

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 最近、空軍関連話が増えていますが、それは「現代の航空戦 湾岸戦争」(リチャード・P・ハリオン著 東洋書林)や「図解 現代の航空戦」(ビル・ガストン&マイク・スピック 原書房)など空軍関係の本を読みふけっているからです。特にここにあげた二冊は白眉で前者は現代の空軍戦略と運用を、後者は兵器と戦術面から航空戦をアプローチしています。

 その中で感銘を受けたのは、航空戦では兵器の性能だけでなく心理的効果も大きな要素になるという事でした。ボーイングB-52ストラトフォートレス、1952年初飛行しベトナム戦争で猛威をふるった巨大爆撃機です。登場から60年以上たつ古い機体ながら未だに現役だという事も驚かされますが、2045年まで使い続けられる予定となるとさらにびっくりします。

 性能から言うと、爆弾搭載量こそ多いものの(30t)それ以外は旧式化が否めません。にも関わらず湾岸戦争でも大きな役割を果たしました。

 現代のアメリカ空軍は、戦争がはじまるとまず巡航ミサイルステルス爆撃機による精密爆撃で敵のレーダー網や指揮中枢、通信中枢を叩き相手が反撃できない態勢を築いてから本格的な空爆を始めます。航空作戦の最初の段階は戦略目標。次に第2段階として戦術目標である前線の地上軍、後方の兵站基地を攻撃します。地上軍が侵攻するのは最後の段階です。湾岸戦争がその典型ですが、アメリカ軍は(他の先進国も同様ですが)まず敵の反撃できないところから戦略目標を攻撃し、敵国家の目と神経をずたずたにしてからはじめて地上戦に移行します。これは自国の人的損害をできるだけ避けるためです。

 そのため、戦争初期の段階では湾岸戦争ボーイングF-117、イラク戦争ノースロップ・グラマンB-2スピリット戦略爆撃機などステルス機が出動し旧式のB-52の出番はありません。B-52は戦争の中盤以降にやっと出撃しますが、完全な制空権を握るまでは巡航ミサイルなどのスタンドオフ兵器(敵の射程外から攻撃する兵器)を使用し、通常爆弾による空爆はほとんど最終局面になってからしか使われません。

 それは前回の記事で書いた通り、無誘導の通常爆弾での絨毯爆撃など現代戦では効率が悪過ぎて意味をなさないからです。にもかかわらずB-52が使用されるのは心理的効果を狙ったに他なりません。


 実際、湾岸戦争においても空爆で指揮中枢、通信中枢をずたずたにされ前線の兵器をほとんど空爆で破壊されながらも頑強に抵抗し続けたイラク軍が、上空にB-52が飛来するのを見ると我先に逃げ出し地上軍の侵攻を待ったようにバタバタと降伏したそうです。ある捕虜になったイラク軍将校は、「トイレに行くときでもB-52の爆撃があるのではないかと恐怖が消えなかった」と証言しています。

 これはB-2などのステルス機では出来ない芸当です。レーダーで捕捉されにくいB-2は、上空に飛来した時点では誘導爆弾や空対地ミサイルで攻撃を終えており敵兵士は恐怖を感じる暇もないからです。いや、おそらく上空に飛来すること自体もないでしょう。スタンドオフ攻撃で任務完了ですから。B-52のような巨人機はそれだけで敵兵士の恐怖を誘います。戦術的効果は望めなくても心理的効果は絶大なのです。ベトナム戦争でのイメージもあるでしょう。湾岸戦争ではわずか74機(全体で122機のうち)参加したのみですが、地上戦での損害を最小限にとどめたという意味ではB-52は大きな役割を果たしたと言えるでしょう。

 その意味ではB-52はまだまだ役に立つ兵器だと言えますね。カタログスペックだけでは決して分からない実戦の話でした。