
※液冷エンジンの傑作、英国の誇るロールスロイス・マーリン

※日本空冷エンジンの代表、火星(ハ101)
これまで何回かのシリーズで、航空機用エンジンの肝は過給機だという事を述べてきました。機械式過給機(スーパーチャージャー)であれ排気タービン(ターボチャージャー)であれ、この能力が優れていなければ高高度性能が良くなるはずもありません。
高度1万メートルを飛来するB29を初めとする四発重爆を迎撃するには、過給機で薄くなった空気を圧縮しエンジンに送り込み、混合気の燃焼効率を高めてある程度のエンジン出力を維持しなければなりません。
理想的には、敵重爆より高度を取り逆落としで銃撃を加えそのまま急降下で抜ける一撃離脱戦法が最も有効な戦術でした。これだと護衛の敵戦闘機も対応する時間が限られてしまいます。
しかし現実はそう甘くありません。ターボチャージャー付きライト R3350(2200馬力)4発のエンジンを持つB29は、高度1万メートルを576km/hという高速で飛ぶ事が出来ます。しかも与圧キャビンで搭乗員の負担も少なく、よたよたで上がってくる日本機を容易に駆逐できました。
空冷エンジンで最も困るのはシリンダーの過熱でした。水密空間にシリンダーを閉じ込め冷却液で均等に冷却する液冷エンジンと違い、空冷エンジンはどうしても冷却にむらができます。これをホットスポットというらしいですが、ほうっておくとその部分からエンジンが過熱して溶け出し火災が起こるのです。パイロットはそれを避けるために常にエンジンの温度に気を配り、出力を絞らなければなりませんでした。
これでは高高度でB29を有効に迎撃できませんよね。高高度性能の高い空冷エンジンというと以前紹介したBMW801Jがありますが、おそらく日本の技術ではこのレベルのエンジンは製造できなかったでしょう。
ドイツ空軍も、わざわざBMW801J搭載のFw190を作るよりは、Me262のようなジェット機を量産するほうがましでした。実は上の有効な戦術はまさにMe262が得意とするものでした。
前置きが長くなりましたが、高高度で有効に働くエンジンには優秀な過給機が必要だとお分かりになったと思います。そしてその過給機の能力を決める重要な要素に「水メタノール噴射」と「インタークーラー」があります。
過給機を上げればエンジン出力も上がりますが、空気は圧縮されると高温になる性質があるため何らかの手段で温度を下げてやらなければなりません。さもないとエンジンが過熱して危険な状態に陥ります。
その対策の一つが水メタノール噴射です。これは過給機で断熱圧縮された吸気に噴射して熱を下げる方式で水にメタノールを混ぜるのはそのほうが冷却効率が高いからです。また高高度で凍結を防止する意味もありました。気化熱で温度を下げる仕組みです。
ノッキングが抑制され高いブースト圧で運転でき、だいたい100馬力~150馬力くらいの出力向上効果があったと伝えられます。
一方、インタークーラーというのは多段過給機の間に設置された中間冷却機です。これも過熱した圧縮空気を冷却する仕組みですが、こちらは水冷式、空冷式の2タイプがありました。
という事は高高度戦闘機の場合はインタークーラー一択なんですよね。あえて言えばエンジンも液冷が理想。しかも液冷ならスーパーチャージャー2段2速あればある程度の高空性能が維持できるのです。
日本で言えば、三式戦飛燕か…。でもハ40は1段過給機だからな。ハ40の改良型で水メタノール噴射装置を装備したハ140があるけど、それを装備した三式戦飛燕Ⅱ型はわずか99機生産ですからね。
エンジンの精度というもっとも根本的な問題はあるけど、空冷の変な排気タービン装備機(キ87など)を試作する暇があったらこちらに本腰入れた方がましだったかもしれません。ただ精密加工技術、整備性、熟練工の問題など難問山積であった事は確か(苦笑)。
まあ、それを言っちゃーおしめえよ!(爆)