鳳山雑記帳はてなブログ

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書評  「秘境ブータン」(中尾佐助著 岩波現代文庫)

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 高名な植物学者中尾佐助氏によるブータン紀行。
 
 1959年世界冒険シリーズの一冊として刊行された本の復刻版です。これは近代化される前の古き良き時代のブータン王国が描かれた貴重な本です。
 
 それにしても中尾氏の文章は上手い。下手な作家の三文小説など足元にも及ばない筆力で時間のたつのも忘れて一気に読み切りました。
 
 
 ブータンについて知らない事ばかりでたいへん貴重な内容でした。日本のお花畑な連中が永世中立国のスイスやスウェーデンが実は超軍事国家だとばれて賛美できないのでブータンにまで食指を伸ばしてきてますが、そんな甘い話ではありません。
 
 
 今のブータンの平和は、激しい戦乱の結果であり、中共が虎視眈々と狙っているためインド軍の駐留をお願いしているという薄氷を踏む状況なんです。実際、台湾ほどあった領土がすでに九州ほどの面積まで縮小しています。(全領土の1割以上を喪失!)
 
 中共ブータンを狙っているのは、非常に貴重な漢方薬である冬虫夏草の産地だからなんだそうです。今でも越境行為を繰り返しているそうですから性質が悪いですね。ほんと世界中に迷惑かけてるな、あの連中は(呆)。
 
 
 
 ブータンはのどかな山間の小国というイメージがありますが、むかしは谷ごとに諸侯が乱立し戦乱の世界だったとか。インドにも侵入し奴隷狩りをしていたそうです。
 
 
 大英帝国がインドを植民地にした時、ネパールと同様ブータンにも侵入したそうですが現地人のゲリラに悩まされて結局植民地化は失敗したそうです。ネパールのグルカ兵と同様、山岳民族は剽悍(ひょうかん)なんでしょうね。
 
 19世紀に英軍の近代的火器に毒矢と槍だけで対抗できたんだから大したものです。
 
 いわば戦国時代のブータンを統一したのが現王家で、先日来日されたワンチャック国王はその5代目に当たられるとか。1907年統一だそうですから近代も近代ですね♪
 
 
 王家のもとで近代化し、主にインドと友好関係を結び技術を導入したそうですが、そのために民族的な剽悍さを失ったのは仕方なかった事でしょう。
 
 
 本書はブータンの歴史、自然、文物など多岐にわたって紹介され古き良き時代のブータンを知るための決定版になると思います。もっともこの本の記述を信じて現代のブータンに行っても面喰らうでしょう。
 
 
 中尾氏自身も後年ブータンを再訪してずいぶん変わったと述懐されているくらいですから。
 
 
 それにしても日本との共通点がいくつか見つかって興味深いですよ。数の数え方が日本語とブータン語でほとんど同じで意味が通じるそうですし。丹前みたいな服、顔立ちもどことなく似てますね♪
 
 ただ、ブータン単一民族じゃなくチベット系のガロップ族50%、ネパール系のローツァンパ35%、その他15%。最近はネパール系が増えてきて軋轢が生じ始めているそうです。
 
 
 ブータンは熱烈な親日国として有名ですが、その裏には中尾先生の教え子である西岡京治さんがブータンの農業技術改善に一生を捧げられたことも理由の一つだそうです。実は中尾先生の事を知ったのも西岡さんの事績を紹介したサイトでしたし。
 
 
 ともかく親日ブータンの事を知る一助になってくれる貴重な本だと思います。内容も面白いし皆さんにお勧めします♪