鳳山雑記帳はてなブログ

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秀吉も一目置いた竜造寺後家   - 竜造寺一族の興亡② -

 戦国時代の九州には誾(ぎん)という名の女丈夫が二人登場します。一人は立花道雪の娘で養子宗茂の妻となった立花誾千代。そして今回紹介する竜造寺慶誾尼(けいぎんに)です。


 「誾(ぎん)」という言葉は「和らぎ慎む」という意味があるそうですが、彼女たちを見ているととてもそうは思えません(苦笑)。戦になったら薙刀をもって真っ先に飛び出しそうな勢いです(爆)。



 この竜造寺慶誾尼は村中竜造寺胤和(たねかず)の娘として生まれ、分家の水ヶ江竜造寺周家(かねいえ)に嫁ぎます。

 ここで両者の関係を説明しておくと村中家が本家で、康家の嫡男家和から始まります。一方水ヶ江家は弟家兼から始まる家系で佐賀市水ヶ江に館を築いたことからこう称しました。


 家兼は傑物であったことと、長生き(九十三歳)でしたのでいつしか竜造寺一門の指導的立場に立ちます。


 もうひとつ余談ながら、竜造寺は龍造寺じゃないの?って言われる方のために説明しておくと「竜」は「龍」の古字なんです。逆だと思っていたんですが、そうらしいんで私は古い人名のときはなるだけ竜を使うことにしております。悪しからず(笑)。


 なかなか本題に入りませんが(爆)、竜造寺一族を襲った惨劇については前回書きました。滅ぼされたのは主に家兼系統の水ヶ江竜造寺一門でしたが、本家村中家もただで済むはずはありませんでした。

 本家竜造寺胤栄も、主君少弐冬尚によって佐賀を追われています。


 家兼が、佐賀城を奪回し御家再興を果たしたとき後継者を誰にするかで紛糾します。病弱の胤栄はすでに亡くなっていたので、その弟家就と、家兼の曾孫で殺された周家の忘れ形見、仏門に入っていた胤信が候補に挙がりました。

 両者はくじを引いて決めるほどの接戦でしたが、厳しい戦国の世を生き抜いて御家を保つには勇猛な胤信こそふさわしいだろうという家兼の考えもあり胤信が竜造寺一門の総領に決まります。


 まもなくして大黒柱家兼が亡くなり、胤信が一人で竜造寺家を支えなければならなくなりました。夫周家が亡くなったとき三十六歳だった慶誾は、息子胤信を大黒柱にふさわしいよう厳しく育てます。


 いつしか彼女は一族になくてはならない人として尊敬を集めるようになります。そんな中、彼女は竜造寺家を支えるのに何が一番大切か?ということを考え続けます。

 そして、重臣筆頭の鍋島清房こそその鍵だと思い至りました。清房自身も忠誠心厚く武勇に優れた武将でしたが、それにもまして息子の信昌(のちの直茂)は思慮深く知勇兼備の名将になる器を持っていました。


 あるとき彼女は、鍋島清房を城中に呼び寄せます。何事かと訝りながら清房が登城してみると、
「そなたは近頃妻を亡くしたと聞く。わらわが後添いを世話する故楽しみに待っているが良い」と言葉を掛けられました。


 もちろん主筋にあたる慶誾から言われたことですから清房に否応はありません。ただ心の中では面倒くさいな、くらいは思っていたでしょう(笑)。本心は断りたかったでしょうが…。


 数日後清房の屋敷に花嫁行列がやってきます。あわてて出てきた清房は、花嫁の顔を見て再びびっくりしました。なんと花嫁は慶誾その人ではありませんか?


 驚く清房を尻目に、慶誾はすたすたと屋敷の中に入ると居住まいを正します。
「そなたが驚くのは無理もない。しかし考えてもみられよ。今は戦国の世。身内とて信じられぬ世の中じゃ。ここは竜造寺・鍋島が共同して外敵と当たることで御家をまもっていきたい。

 私がそなたと夫婦になることで、信昌殿は胤信の義理の弟になる。両家力を合わせて国を守っていこうではないか」


 びっくり仰天した清房でしたが、これを受け入れます。このとき清房四十五歳、慶誾は四十八歳でした。


 当時の武士社会では主人が家臣の嫁になることは異例であり、一部には軽々しいなどと非難されました。しかし清房は御家を守るという慶誾の情熱に負けたからこそ承知したのだと思います。

 世間ではこれを「佐賀の押しかけ嫁」といってもてはやしましたが、これによって竜造寺・鍋島両家の絆は深まり、肥前・肥後・筑前筑後豊前壱岐対馬の「五州二島の太守」と呼ばれるまで発展させたのですから絶大な効果があったのでしょう。


 慶誾は息子隆信より長生きし、亡くなったのは慶長五年、九十二歳の長寿でした。一説には豊臣秀吉が竜造寺家を滅ぼさなかったのは、鍋島直茂と慶誾尼の存在があったからだとも言われています。


 徳川家康も、後年「竜造寺後家」の話をよく側近たちに話したそうです。それだけ年をとっても魅力があったのでしょう。あるいは一種の尊敬のまなざしで見られていたのかもしれません。