吉川英治といえば、戦前戦後を代表する国民的作家です。宮本武蔵、新平家物語など名作は数限りなくありますが、私は三国志を推します。実は鳳山が三国志にはまったきっかけは、この吉川英治版と横山光輝の漫画版でした。漫画版も吉川版に準拠しているのでこれが最初といっても良いでしょう。
三国志演義で悪役だった曹操を青雲の志に燃える英雄として(欠点はありつつも)再評価したのも吉川英治でした。
なかには、一生心に残る名言も少なくありません。そのうちの一つに劉備が曹操の策にはまり、呂布に徐州を奪われ、袁術と挟み撃ちに合って広陵に逃れるシーンがあります。袁術と仲たがいし、劉備に利用価値を見出した呂布が再び劉備を招きよせようとするのですが、関羽、張飛が反対します。自分たちを徐州から追った張本人からの誘いですから当然です。しかし劉備がこう言うのです。このシーンは吉川版より横山光輝の漫画版のほうが臨場感があるので、そちらで紹介します。
「龍が淵に潜むは何のため。雨を得て天に昇らんがためであろう。時には恥を忍ぶこともあろう。」
こうして、劉備は呂布と和睦し小沛の城にはいります。やがて劉備は、曹操と共同して呂布を滅ぼします。
私は、失意の時はいつもこの言葉を思い出します。そして自分が劉備になったつもりになります。すると不思議に力が湧いてくるのです。劉備も浮沈の激しい波乱万丈の人生でした。しかし最後には龍が天に昇るごとく蜀漢の昭烈帝にまで出世します。人生の途中の小さな挫折で負けてたまるか、人生は最後までわからないんだ、という気になるのです。