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書評『米軍と人民解放軍』(布施哲著 講談社現代新書)

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 2014年とちょっと古いですが近い将来起こるであろうアメリカを中心とした自由主義連合とシナを中心とし南北朝鮮やごく一部が加わるであろう独裁社会主義勢力との間の戦争をシミュレートした本です。ランド研究所などアメリカの軍事系シンクタンクへの取材、日米軍関係者への取材をもとにし将来起こるであろう戦争を詳細に記しています。

 同書によると、実力で米軍に敵わないシナ人民解放軍はまずサイバー攻撃で一時的に日米のレーダー網、指揮中枢を一斉攻撃し動けない間に台湾を電撃的に占領、対艦弾道ミサイルなどを使い米空母打撃群の接近阻止、台湾上空、沖縄空域での航空優勢を維持し日米の出血を強いる戦術を取るそうです。

 極東海域に進出した米3個空母打撃群のうち2個がシナ潜水艦や機雷にやられ戦闘離脱、シナ空軍は戦争初期に211機の軍用機を失うものの台湾空軍と支援に向かった米空軍合計で147機失うというシミュレーションでした。日本もシナの巡航ミサイルの波状攻撃を受け地上撃破も含み全作戦機の7割を失うという壊滅的打撃を受けます。衝撃的数字でした。

 ただ数値の間違いがあり、F-35の実力を過小評価している面もあり全面的に信頼はできないと感じました。同書の想定では戦争勃発前シナ潜水艦が東京湾入り口やマラッカ海峡に潜伏し米空母打撃群の通過を待ち伏せし攻撃するというものですが、まずシナ潜水艦はまともに出撃できないと思います。宮古海峡などチョークポイントには海上自衛隊通常動力型潜水艦待ち伏せしてますし米攻撃型原潜は常時海南島から出撃するシナ潜水艦を追尾しています。SOSUSなどの海底音響監視システムはサイバー攻撃で一時使用不能になるかもしれませんが、シナ潜水艦が第一列島線から出るのは至難の業だと考えます。

 またシナ潜水艦が機雷で台湾の軍港や日本の佐世保、横須賀などの重要軍港を使用不能にするという想定も、逆に日米側がシナの港を機雷封鎖するほうが先だと思います。アメリカには魚雷射出型機雷のキャプター機雷とその後継機雷(詳細不明)がありますし、日本もわざわざ潜水艦でばら撒かなくても済む自走式機雷を保有しています。これらの情報は最高軍事機密なので詳細が分かりませんが、一説ではかなりの高性能で有事になったら猛威を振るうと考えられています。インターネットの討論でも海自OBは存在はほのめかすものの詳細を語らないため対シナ戦の切り札と考えているのだろうと想像します。

 シナは経済的中心地が沿岸部に集中するという地政学的に致命的な弱点があります。日米が上海や天津など重要港湾に機雷を敷設したと宣言するだけでシナの海上物流は止まると思います。一隻か二隻触雷して沈没したら効果抜群です。シナ海軍が日本のシーレーンを脅かすという想定も、シナのシーレーンと被るため逆に日米海軍が封鎖すると思います。日米豪印のクアッド同盟が何よりも心強い。

 ですから本書の想定は最悪の場合こうなるという認識で良いと思います。米軍が予算獲得のためにわざと大袈裟な想定をしているという疑いがなくもないですが、日本の国防を真剣に考えている方に一読をお勧めします。ただし兵器のスペックなど数値関係は信用しないでください。作者が疎いのかちょくちょく間違いがあります。例えばロサンゼルス級攻撃型原潜の作戦深度750mなど。米海軍は戦術潜水艦に待ち伏せ攻撃を想定していないためそこまで深く潜る必要性がありません。軍事機密ですから詳細は分かりませんが、ロス級の作戦深度は457m、圧壊深度で550mだと言われています。750mだとシーウルフ級並ですよ。コストパフォーマンスが悪すぎる。シーウルフ級は余りにも高性能を追及したため建造費が高騰し3隻で建造打ち切りになりました。その反省からコストパフォーマンスに優れるバージニア級の建造が始まったんです。

 

 私の感想は、数値的な間違いは置いておいてなかなか面白く考えさせられる本でした。